Google では、チームやプロジェクト内でのリードエンジニアのことを Tech Lead と呼びます。数人から 10 名ほどのチームに、Tech Lead が1人います。私は Google Chrome の DOM / HTML Team の Lead であり、Web Components Project の Tech Lead です。
主に Google Chrome で使用されているレンダリングエンジン Blink の開発です。
Blink はオープンソースです。Commits は公開されています:
DOM / Shadow DOM / Events / CSS あたりを触っていることが多いです。
代表的な CL (CL とは Change List の略で、主に Google で使用されている用語。いわゆる"パッチ"に相当します)
2016-2017: Shadow DOM V1 の Distribution Engine 関係の CLs:
2014: Google Chrome の Event Dispatching を 400 倍速くした CL。
このパッチは、Chrome の Speed Hall of Fame を受賞しました。
3/12/2014 - Improvement of the Week
Last week Hayato Ito reduced checking if a DOM tree is a descendent of another from O(N) in the height of the tree of trees to O(1). In smaller trees this produces 2-3x faster event dispatching, but in the deeply nested trees Hayato created he saw more than a 400x improvement! I'd also like to thank Hayato for the fantastic description of the patch and its effects in the CL description. Great work!
Web Standards に関わると、他のブラウザベンダ(Apple, Mozilla, Microsoft 等)と直接話をする必要があります。旅行が好きなら、Web Standards のお仕事はオススメです。
Web そのものの仕組みをつくるお仕事です。Web 標準の仕様書を書きます。私は Shadow DOM の Spec Editor です。DOM や HTML の仕様策定もしています。
WHATWG の HTML Standard です。W3C の HTML5 仕様は見ていません。
早い話がこのような Web を目指します。難しいことは覚えなくてよい、誰もがタグを書くだけで OK な Web に戻します。
<html>
<head>
<link rel="import" href="gmail-app.html" />
</head>
<body>
<google-header></google-header>
<gmail-app>
<google-hangout></google-hangout>
<google-mail></google-mail>
</gmail-app>
</body>
</html>
昔とある講演のためつくったスライド: https://hayato.io/webcomponents-slides/。
毎回、説明にとても苦労します。簡単に言うと:
Web は DOM Node という基本的単位から成り立ちます。
複数の Node が あつまり Tree を形成して Node Tree になります。みなさんがみている Web ページは(おおまかにいうと)この Node Tree ひとつからできています。
Web の根本的な問題点のひとつとして、「他の Web ページの特定の部分を再利用することは本質的に困難である」というのがあげられます:
他の Web ページの Node Tree の Subtree を、自分の Node Tree に「混ぜて」使用した場合、なにが起きるかを事前に予期するのは非常に困難です。
つまり、これまでの Web は 「混ぜるな危険」でした。少し混ぜただけで、ページ全体が容易に壊れてしまいます。
Shadow DOM は Node Tree 自体を Shadow Tree として、他に干渉することなく再利用することを可能にします。Node Tree 自体を、コンポーネントの単位とすることが可能になります。
これにより、抽象化の概念がなかった、DOM に抽象化の概念をもたらします。C に Class の概念を持ち込んだのが C++ であるのと同様に、DOM に抽象化の概念をもたらすのが Shadow DOM です。
これまでの Web ページがひとつの Node Tree から成り立っていたのに対して、Shadow DOM の世界では Web ページは Node Tree の Tree から成り立ちます。 Tree だった Web が これからは Tree of Trees となります。
以下も参考にしてください。
<input>
, <video>
など)。つまり
Electron や Atom Editor や Visual Studio Code なども。<twitterwidget>
(...Shadow DOM からの続き) Shadow DOM と Custom Elemenets と HTML Imports を組み合わせることによって、Web 開発者は、自分のつくった世界そのものを Web Component として簡単に再利用可能な形で公開することができるようになります。
コンポーネントの利用者は、タグ を書くだけで、他の人がつくったコンポーネントを再利用できます。ひとつの Web Component は、その内部ではさらに複数の Web Component を使用しているかもしれませんが、利用者はそれは気にしなくてよいです。
...とここまで聞くと、とても複雑なことをしているように思えますが、実は目指している世界は、むしろその逆です。
複雑高度になり一部の技術者だけのものになりつつある現在の Web を、HTML の"タグ" を手書きするだけで良かった誰もが楽しめる Web に戻します:
Web プラットフォームは進化を続けています。もはやタグを手書きして HTML を書くだけでは、とてもユーザーを満足させるサイトは作成できなくなりました。「きちんとした」サイトをつくるには、多くのことを学習する必要があります。
どうして多くのことを覚えなければいけないのでしょうか? それは Web プラットフォームの根幹である DOM に抽象化の仕組みがないのが大きな理由のひとつです。適切な抽象化レイヤーがあれば、本来、知らなくてよいことは「隠す」ことができるはずです。
Web Components の世界では、「タグ」を書くだけで、他の人が書いた Web Components をレゴブロックのように組み合わせて利用できます。コンポーネントの内部がどのようになっているかは知る必要はありません。そう、古き良きタグを手書きするだけでよかったあの時代に戻ります。
ブラウザが本来もつパワーを Web 開発者に開放します:
たとえば HTML に標準で用意されている <video>
タグは、誰でもタグを書くだけで、動画を再生することができます。 <video>
タグの内部がどのように実装されているかは気にしませんよね?実は <video>
タグは Google Chrome では Shadow
DOM を内部で使用しています。ある意味、これはひとつの Web Components です。
現在の Web では、<video>
タグと同じようなものを、Web 開発者は自分ではつくれません。 Web Components の世界では、Web 開発者に Shadow DOM のもつ力を開放します。私は、Web 開発者の情熱・想像力を信じています。
誰もが Web Components を作れるようになり、そしてそれを公開し誰もが再利用できたら、ステキですよね。 Shadow DOM や Web Components はそのような世界を目指しています。
Web Components は 2014 の The Best New Web Technology new Award を受賞しました。
違います。この CL や この WebKit の Blog をみて、一部でそのような勘違いをしてしまった人がいるようです。
Purge remaining ENABLE(SHADOW_DOM) cruft.
<https://webkit.org/b/128827>
Source/WebCore:
Remove the remaining 8.8 million lines of Shadow DOM code to align with goals for intent to ship 60fps on mobile in 2014.
この CL はその先日に Google が Blink から WebKit 由来の 8.8 million 行のコードを削除したとの記事:
Google Has Already Removed 8.8M Lines Of WebKit Code From Blink
を受けての Apple さんのジョークです。
常に 最新の Editors Draft (http://w3c.github.io/webcomponents/spec/shadow/) を参照あるいはリンクを貼るようにしてください。
フロントエンドの人はなぜか自虐的なことばかりを言っている印象があるのですが、自虐からはなにも生まれないので、もっと誇りと自信をもってください。ユーザーが快適に Web を利用できるのは、フロントエンド開発者のおかげです。Web 大好きな人は想像以上にいっぱいいますよ。みんな同じ船に乗っている仲間です。
自虐するよりは、ちゃんと中の人にフィードバッグしたほうがいいです。今どきはどこでも GitHub Issues 等で声を届けることができます。 Twitter でいくらつぶやいたところで届かないです。「絶対中の人に届けてやる!」という強い意思が必要です。
Web プラットフォームは天から降ってきて一方的に与えられるものでは決してなく、人間がつくっているものです。自分には関係ないと思うよりは、もっと Web そのものの進化に積極的に関わるようにするときっともっと面白いと思いますよ。変えられないものなんてありません。いつでも大歓迎です。
まだまだ Web Components / Shadow DOM についてはやることが山積みではあるのですが (HTML Modules 等も控えています)、 Web プラットフォームの 20 年以上に渡る問題を解決したあとは、以下のことに取り組みたいです。
DOM と CSS の根本的な問題は Shadow DOM で直した(希望)ので、次に手をつけるとしたらやはり JavaScript ですね。Rust -> WebAssembly, Rust DOM Bining 辺り。 JavaScript を Rust で置き換えることができれば Web はより面白くなります。いままで JavaScript を使用することに難色があったため参入してこなかった優れたプログラマたちが、その障壁がなくなることにより一挙に Web に参入してくれば、いままで JavaScript の壁で守られていた JavaScript 専門のフロントエンドエンジニアさんたちもうかうかしていれられなくなるかもね(適当)。どんなときも健全な競争は良いことです。
あるいは Blink 自体を Rust で書き直すとか。現在は主に C++ で書かれています。
あくまで未確定な予定ですので、あまり過度な期待はしないで、温かく見守っていてくださいね。
いいですね。具体的なアイデアがあるなら、まずはデモをつくってみることをオススメします。デモができたら声かけてください。
具体的なアイデアやデモが含まれていない場合は、しかるべきところにアイデアを提案したところで、[duplicated] あるいは [Needs concrete proposal] というラベルがついてすぐに Close されると思います。中の人は、具体的ではない似たようなアイデアを何度も何度も聞いています。
「王様達のヴァイキング」は、小学館の週刊スピリッツで連載中の漫画です。ハッカーと投資家が主人公です。
Twitter 公式アカウントは、@kingsviking です。
私は技術監修としてこの漫画をサポートしています。主に次のようなことに関わっています。
つまり、一般の読者からは「難しいところはわからないです(けれど面白いです!)」と言われ、詳しい人からは「この設定気にいらない!」と石を投げられる側の役割です ...。
この作品にかかわる方(漫画家さん、担当編集さん、ライターさん等)、みなさん本当に漫画を面白くするプロ・よい文章を書くプロで、いつもその仕事のプロフェッショナルっぷりに感心しきっています。週刊連載を抱える漫画家さんがコンスタントにアウトプットを重ねていく姿を、みなさんより近いところで見ることができるのは、とてもよい刺激になります。
プログラミングの素晴らしさが、漫画のもつ偉大な力を通じて、多くの読者に伝わればよいなと思ってお手伝いしています。
漫画家さん宛に届く作品のファンの方からのファンレターをときどき見せてもらうことがあります(もちろん宛先として「関係者の皆様」となっていた場合です)。そこにはとても温かいお言葉があり「あー、漫画家さんってとてもとても大変なお仕事だけど、こうしてファンの皆様から直接温かいお手紙を頂けるとは素晴らしいお仕事だなー。苦労が報われるわー」とちょっぴり羨ましい気持ちにもなったりします。
それにひきかえ、ソフトウェアエンジニアがいくらコードを書いても、ファンの方ではなくユーザーの方から「バグさっさとなおせ!」といわれるだけですからね。いや、とてもありがたいです。いつも貴重なフィードバッグありがとうございます。
一度くらい感謝されてもいいのでは...と思いつつ、それでも好きだからコードを書き続けるのです。:)
違います。是枝くんが使用するプログラミング言語・ソースコードは私にとてもよく似てますが、あくまで偶然です。
違います。パンイチになったりしません。
違います。裸になったりしません。
違います。ワインを頭からかけたりしません。
これまで C, C++, PowerPC Assembly, Python 3, Scala, Rust 等が登場しています。
例)
興味のあるかたは (単行本を買って) コードも読んでみてくださいね。
違います。もちろんブラウザの開発においてセキュリティは最重要視しているので、セキュリティ関連のお仕事をすることもありますがそれはメインではありません。
最近でいうと:
世界的に有名なポーランドのセキュリティ研究者 Mariusz Mlynski が報告してきた Chrome の Universal XSS 脆弱性についてその原因の調査・修正したり (crbug.com/630870)
(この脆弱性の報告には 賞金 $7,500 が支払われました。報告してくれた人には賞金がでたのに、直した私は 1 ドルももらえません (当たり前))
引用: https://chromereleases.googleblog.com/2016/12/stable-channel-update-for-desktop.html
[$7500][630870] High CVE-2016-5204: Universal XSS in Blink. Credit to Mariusz Mlynski
Rust の iron (Web サーバ)で使用される staticfile crate に脆弱性を見つけたので報告したら (iron/staticfile/issues/89)、「よかったら、直してくれない?」といわれたので直してあげたり
してました。だ、だけど、メインのお仕事じゃないからね!
150 人以上です。すべて 1 : 1 での 45 分ほどの面接です。電話インタビューやインターンの面接も含みます。
Q. 「バスにゴルフボールはいくつ入るでしょうか?」
A. 「そんな問題はもはや聞いていないです。いまはゴルフボールにバスが何台はいるかを聞いています。」
...といった、変な情報に振り回されないでください。
「何をすればよいのか」を挙げるのは難しいです...。 (TODO: いつかちゃんと書く)
その反対、「特にやる必要はないこと」を挙げるなら簡単にできます。たとえば、以下の項目はプログラマとしての能力とはいっさい関係がないことは、みんな理解していますので、安心してください。
これらの活動を特にしていなくても、気にしないでください。プログラマ・ソフトウェアエンジニアとして濃密な時間を過ごした人が正しく報われるインタビューをいつも心がけています。
ソフトウェアエンジニアリング的に正しいことを正しく行っている
「正しいことをやりたいのに」技術レベルが下の人に合わせざるを得ずに断念せざるを得ない...ということはまずありません。 その逆で、「技術が上」の人にみんなが合わせるように努力している。
ソフトウェアエンジニアの採用が一貫して実力主義
採用において、実力のみがものをいう仕組みを制度として持っている・その制度を維持しようとしているところ。 これを続けている限り、Google は強いと思います。
みんなコードを書く
コードを書くのがソフトウェアエンジニアのお仕事です。
無駄なプロジェクトはわりとあっさり切り捨てる。その判断が早い。
エンジニアのリソースが限られている以上、意識的に切り捨てていかないと、前には進めません。
6 人です。すべて学部生です。
TODO: 書きます。
いい人がいれば。
(データ構造やアルゴリズムの基本は当たり前として)今年は特に Rust がひと通りできる かつ システムプログラミングを苦手にしない人に会えたらいいなー。どこかにいないかなー。[壁]д・)チラッ
興味があればぜひ応募してくださいね。
TODO: 書きます。
当分の間、質問があればこちらに GitHub Issues どうぞ。
Google から誘いがくるというのは、「よかったら面接をうけてみませんか?」くらいの意味しかありません。
1 と 2 で採用プロセスは基本変わらないです。
私は今はインタビューする側ですが、インタビュー中は 1 と 2 の違いを意識していません。
Google の採用担当の人が何度も熱心に声をかけた結果、ようやく面接にきていただいたにもかかわらず、エンジニアがインタビューした結果、思うような評価が得られなかった場合は、普通にお断りされてしまいます。
これはよく聞かれる質問です。以下、事実のみを書いておきます。
以下は(事実とは限らない)意見です。
C++: Google Chrome が使用しているレンダリングエンジン Blink の開発。
Rust: CPU Intensive なコードを安全に書きたいとき。JVM に絶望したとき。
Python: Chrome の開発で使用する Tool や個人の Tool 等を書くとき。Python で書くのはおよそ 100 行以下までです。
Scala: 1,000 行以上のある程度大きなものを書くとき。footprint をあまり気にしなくてよいとき。ICFP Programming Contest (関数型言語の国際学会が毎年開催しているプログラミング大会)に参加するとき。
Haskell: まともな型システムが欲しくなったとき。Scala の型システムに絶望したとき。
JavaScript: Web。
Shell Script: シェル環境に直接作用するものや、zsh の Line Editor 用の function など。
Emacs Lisp: 趣味と実益。
Rust。
Rust は Move Semantics を言語デザインの中心にすることで、驚くほど多くの問題が統一的に解決できるということを実用的に示した唯一の言語だと思います。
とくに C++ の良いところと危険なところを理解している人には、とてもオススメできるプログラミング言語だと思います。逆にいうと、C++ への理解が足りない (というよりコンピュータの基礎がわかっていない)人にとっては、とても学習曲線が高いプログラミング言語だと思います...。学習曲線が高いかわりに、いままでのプログラミング言語では放置されていた多くの問題が静的に解決できるので、見返りがとても大きいです。
Ownership, Borrowing, Lifetimes の仕組み。メモリだけでなくネットワークコネクションなどのリソース管理全般に関するバグをコンパイル時に発見します。
安全性を重点をおきながら、同時に Zero-Cost Abstractions について妥協していません。安全性のチェックはコンパイル時に解決済みなので、実行時に余分なオーバーヘッドはありません。C++ と同等に速いです。Zero-Cost Abstractions を追求しないと、 C++ の置き換えにはなれないのでとても重要です。
モダンなプログラミング言語なら当然あってほしい機能(Pattern Matching, Algebraic data type, Traits 等)をちゃんと備えています。Zero-Cost Abstraction を保ちつつ、十分に高い抽象化レベルでコードを安全に書けます。高い抽象度は高い生産性をもたらします。
Macro や Compiler Plugins があります。Macro は Hygienic macro です。identifier の衝突の心配はありません。
vtable が必要になる Dynamic Dispatch よりも、Static Dispatch (Parametric Polymorphism) が推奨されています。正しい。
コストがかかる処理を書くときはプログラマにちゃんと罪悪感を感じてもらうような API デザインが意図的に多く採用されています。未熟なプログラマが、知らないうちに効率の悪いコードを書くのを防ぐ教育的効果があります。
C などの他のプログラミング言語との 相互呼び出し (FFI) が容易です。ランタイムレスですので、Rust で書いておけばすべてのプログラミング言語の資産になりえます。
System Programming Language です。必要に応じて unsafe なコードを書けます。OS が書けます。
Type System。あらゆるところに型をつけようという強い意志があります。そのため他のプログラミング言語ならランタイム時に行わざるをえないこともコンパイル時に解決・最適化できます。
コンパイラにしっかり守られている感覚が強いです。ただし unsafe な部分を書くときは、「ここから先はコンパイラは助けてくれない。自分がしっかりしなくては...」という気分になれます。
十分に賢い型推論 (Lifetime のサポートがあるため 厳密には Hindley/Milner ではありません)。
他のプログラミング言語に備わっている定評のあるアイデアやパラダイムからインスパイアされています。代表的なものとしては:
などが挙げられます (参考)。これらは、100 人中 99 人が「これは間違いなくよいもの ☆」と思うであろう定評のある機能やパラダイムです。
その一方、100 人中 40 人が「こんなのいらないです。お願いですからやめてください。」と思うであろう機能・パラダイム、たとえば
などについては「そんなのいりません。出直してきてくだい。」という感じで最初から入れる気がまったくないところが素敵です。
Rust はあえていうなら「型クラス指向 (Type Class Oriented )」「Move Semantics Oriented」のプログラミング言語です。
Rust のことを関数型プログラミング言語と呼んでいる人がいたら、その人は Rust のことも関数型プログラミングのこともどちらもわかっていない可能性が高いです。「これは ◯◯ 指向だ」「いや ◯◯ 型言語だ」のような抽象的な議論はあまり生産的ではないので、個々の具体的な特徴についてその背景・意義・有用性についてきちんと学んだほうが生産的です。
Rust は学習コストが高いプログラミング言語と思われていますが、そもそも(ある程度大規模な)「プログラムを正しく」書くこと自体が普通の人間には相当難しいことです。これまでの学習コストが低いとされているプログラミング言語は、最初のほうだけ「(なんとなく)動いている」プログラムを書くのを助けてくれるだけであり、「正しいプログラム」を書くことについては何も助けてくれず放置プレイです。最終的にユーザーにすべての責任・負担がかかります。
Rust は「正しいプログラム」を人間が書くまできちんと指摘してくるので学習コストが高くなってしまいますが、それらはいずれは何らかの形で身につけなければいけないことなのでむしろありがたいことです。これまではユーザーが担っていた責任の一部を、「コンパイラに押し付ける」ことができます。
Rust は「学習コストが高い」言語というよりは「プログラミングの学習コストを可視化してくれる」言語といったほうがいいかもしれません。これまで「雰囲気でプログラミング」してきた人にとって Rust の学習コストが高く感じるのは、きちんと可視化がうまくいっている結果です。
ICFP Programming Contest。 2009 - 2015 は Scala で、2016, 2017 は Rust で参加しました。
2009:
Scala で参加。
シャトルを操縦してスペースデブリを回収するプログラムをつくる問題。コードは VM 上で動きます。VM も仕様が与えられるので、最初に自分で書きます。惑星の重力をうまく利用していかにシャトルの燃料消費を抑えるかとうがポイントだった気が。
Scala で参加。
車とそれを動かすための燃料を設計する問題。最初に謎の 3 進数データを解析しないといけないのが大変。
Scala で参加。
「Magic the Gathering」 からインスパイアされた(であろう) 「Lamda: the Gathering」という対戦型カードゲームの AI をつくる問題。基本カードとして SKI Combinator などが与えられるので、それらを上手く組み合わせて強いカード(スロット )をつくる必要があります。
バルダーダッシュ (のような)問題の AI をつくる問題。
Scala で参加。 Code
入力と出力が与えられるので、それを満たすプログラム(式)を生成するプログラムをつくる問題。
2014 (archive)
Scala で参加。
パックマンの AI をつくる問題。パックマン側とゴースト側の両方をつくる必要があります。ただし GHost CPU (GHC) という仮想的な CPU (非常に限られたローレベルの命令セットしかサポートしていない)上で動かす必要があります。直接 GHC Program を書くのは普通の人間には困難ですので、AI 自体はハイレベルな言語で書くようにして、それを GHC Program に変換するコンパイラ等を自力で書くといった方針でないと、強い AI を書くのは実質不可能です。 Lisp っぽい言語を自分でつくって、それを GHC Program にコンパイルしている人が多かった気が。
六角形のマスをつかったテトリスの AI をつくる問題。
Rust で参加。 Repository
入力としてすでに折った後の折り紙の形が与えられます。折り方を見つけてくださいという問題。
2 年連続 Rust で参加。 Repository。Visualizer。感想(別記事)。
Undirected-Graph の Edge をターン制でとっていく n 人 Game。いくつかのノードはラムダになっていて、ラムダから到達できる Node ごとにスコアが d * d 点加算。ただし、距離 d は取っていないすべての Edge を使用して計算します。
これもよく聞かれる質問です。自分で考えましょう。問題解決にあたって最適な道具を選択するのも、ソフトウェアエンジニアにとって大事なスキルのひとつです。
以下は私の(まとまっていない)意見です。
動的言語の「動的」性がどうしても必要になるプログラムというのは 1%もないのですが、実際はそれ以上の割合で動的言語が使用されています。
人類が静的型チェックなしの動的スクリプト言語に費やしたこの 20 年くらいは、将来黒歴史として語り継がれるかもしれません。「原理的に遅い」けれど「コンピュータの速度は毎年速くなるから大丈夫!」といった「言い訳」のセリフも今となっては、通用しなくなってしまいました。ムーアの法則も崩壊して、実在する動的言語技術を用いて実用的なブラウザや OS が書ける見込みはほぼゼロです。
正しくコンピュータの知識を身につけて「無駄なく」利用するという「いわれてみれば当たり前」のことが今後より重要視されるようになるでしょう。なんてことはない、もとの正常な状態に戻っただけです。
「コンパイラ」技術や「ゼロコスト抽象化」といった技術は今後その価値が増す一方、それ以外の「コストが高い抽象化」の価値はどんどん失われていくことでしょう。
「(速度はともかく)小規模なスクリプトだと静的言語より動的言語のほうが生産性が高いんです!」という主張も個人の限られた経験に基づくものがほとんどでたいていの場合疑ったほうがよいです。この主張をする人で、そもそもモダンな型システムをもっている安全で生産性の高いプログラミング言語の習得に、動的言語と同じくらいの時間を投資したことのある人はほとんどいないです。
生産性についてちゃんとした議論をするためには、「静的言語」と「動的言語」というあいまいな言葉を使わないで、より具体的な個々のプログラミング言語にきちんと向き合うべきです。
いちサンプルとして、私は Python は 10 年以上、Rust は 2 年弱ほど使用していますが、小規模な使い捨て「スクリプト」を書くときもすでに私はほとんどのユースケースにおいて Rust で書くほうが生産性が上になっています。
ひとつの価値観にとらわれることなく、実際に自分で触れて経験して発見することはとても大事です。
そう思っていた時期がありました。しかし、Rust は <crate_root>/src/bin
以下に
*.rs
ファイルをおいておくだけで、それぞれの *.rs
をビルドして別の実行ファイルをつくってくれます。たとえば my-hello-world "スクリプト" を書きたいと思ったら
<crate_root>/src/bin/my-hello-world.rs
においておけば開発中は:
% cargo run --bin my-hello-world [args...]
ですぐにテスト実行できます。 <crate_root>/target/release
に PATH を通しておけば
% cargo build --release
と必要に応じてまとめてビルドしておくだけで、普段は
% my-hello-world
で普通に呼び出せるので完全にスクリプト感覚で使用できます。
<crate_root>/src/bin
の仕組みがなかったら、普段使いの"スクリプト"言語として
Python を Rust で置き換えようとはきっと思わなかったでしょう。
やめましょう。その例えは表現力に乏しく、ほとんどのケースにおいて不適切ですぐに破綻します。混乱の元です。
オススメは最初からメモリをきちんと意識してもらうこと、これが一番の近道です。
慣れないうちは、以下のようにメモリー上の「表」を自分で書いてみるのがよいです。大事なのは、それぞれの変数に対して address と value の「両方」を最初から意識することです。
address variable value
10: mut a 0 (u8)
11: mut b 1 (u8)
12: mut a1 10 (&mut u8)
13: a2 12 (&mut &mut u8)
慣れてくると、コードを見るだけでこのような「表」が自然と頭の中で構築されるようになるでしょう。関数呼び出しの際も「値渡し」「参照渡し」という曖昧な言葉を使うのはできるだけ避けて、最初からメモリ(スタック)を意識して理解するようにすれば、覚えなければいけない「ルール」はぐっと減ります。
例えば以下のような、Rust のコードの場合:
let mut a: u8 = 0;
let mut b = 1;
{
let mut a1 = &mut a;
assert_eq!(*a1, 0);
{
let a2 = &mut a1;
assert_eq!(**a2, 0);
**a2 = 2;
assert_eq!(**a2, 2);
*a2 = &mut b;
assert_eq!(**a2, 1);
}
assert_eq!(*a1, 1);
*a1 = 3;
assert_eq!(*a1, 3);
}
assert_eq!(a, 2);
assert_eq!(b, 3);
以下のようになります。変数の型はほとんどの場合省略できますがここではあえて書いています。
let mut a: u8 = 0;
let mut b: u8 = 1;
// address variable value
// 10: mut a 0 (u8)
// 11: mut b 1 (u8)
{
let mut a1: &mut u8 = &mut a;
// address variable value
// 10: mut a 0 (u8)
// 11: mut b 1 (u8)
// 12: mut a1 10 (&mut u8)
assert_eq!(*a1, 0);
{
let a2: &mut &mut u8 = &mut a1;
// address variable value
// 10: mut a 0 (u8)
// 11: mut b 1 (u8)
// 12: mut a1 10 (&mut u8)
// 13: a2 12 (&mut &mut u8)
assert_eq!(**a2, 0);
**a2 = 2;
// address variable value
// 10: mut a 2 (u8)
// 11: mut b 1 (u8)
// 12: mut a1 10 (&mut u8)
// 13: a2 12 (&mut &mut u8)
assert_eq!(**a2, 2);
*a2 = &mut b;
// address variable value
// 10: mut a 2 (u8)
// 11: mut b 1 (u8)
// 12: mut a1 11 (&mut u8)
// 13: a2 12 (&mut &mut u8)
assert_eq!(**a2, 1);
}
// address variable value
// 10: mut a 2 (u8)
// 11: mut b 1 (u8)
// 12: mut a1 11 (&mut u8)
assert_eq!(*a1, 1);
*a1 = 3;
// address variable value
// 10: mut a 2 (u8)
// 11: mut b 3 (u8)
// 12: mut a1 11 (&mut u8)
assert_eq!(*a1, 3);
}
// address variable value
// 10: mut a 2 (u8)
// 11: mut b 3 (u8)
assert_eq!(a, 2);
assert_eq!(b, 3);
u8
, &mut u8
など各変数の型や型のサイズも意識するとよいです。上の例でいえば、u8
は 1 byte、&mut u8
などの 「ポインタ」 は 64bit
architecture だと 8 bytes です。address の「間隔」も本来であれば型のサイズで調整します。この FAQ エントリは、何度も同じ説明をホワイトボードに書くのがつらくなったため参照してもらうために書きました。
Todo: ヒープの例を追加。
「プログラミングとはメモリの Syntax Sugar である。」
Sculpt Ergonomic Keyboard for Business。
このキーボード(US 配列版)は残念ながら日本では販売していません。
ないです。
(Scala 以外は) Emacs。C++ は Eclipse CDT も使用します。
ちなみに観測範囲においては Google のソフトウェアエンジニアは (Java や Objective-C を書く人を除くと)Emacs を使う人がほとんどです。Emacs ユーザーの割合は 80% を超えると思います。
使用している e-lisp library をひとつひとつ挙げるのはとても難しいです...。 Emacs に標準で付属していない・自分でインストールしたパッケージなら、リストにするのは簡単にできます。以下の通りです。
★ が付いているのは、特定の言語用の Major Mode ではなく、汎用的に使用する・オススメできるものです。
一時期そういう噂が流れましたが、いまはぐっと減っていると思います。安心してください。
<2016-12-15 Thu>
数えてみたところ、たったの 5,000 行でした。
% wc emacs/*.el
330 1412 17854 emacs/custom.el
471 1166 13912 emacs/emacs.el
17 52 459 emacs/my-ace-window.el
74 316 3137 emacs/my-ansi-color.el
25 72 869 emacs/my-auto-insert.el
32 84 1142 emacs/my-back-button.el
34 121 1224 emacs/my-bookmark.el
21 42 505 emacs/my-browse-url.el
59 130 1673 emacs/my-cc.el
193 521 7040 emacs/my-chrome.el
52 131 1713 emacs/my-clipboard-sync.el
113 236 3419 emacs/my-company.el
67 170 2546 emacs/my-compile.el
129 372 4947 emacs/my-counsel.el
41 124 1275 emacs/my-dabbrev.el
65 196 2568 emacs/my-dir-locals.el
99 247 2993 emacs/my-dired.el
17 46 482 emacs/my-dumb-jump.el
20 30 430 emacs/my-easy-repeat.el
56 153 2002 emacs/my-ediff.el
84 218 2548 emacs/my-emacs-lisp.el
23 53 786 emacs/my-exec-path-from-shell.el
7 12 131 emacs/my-expand-region.el
60 157 2160 emacs/my-filecache.el
36 78 1115 emacs/my-flycheck.el
105 283 3366 emacs/my-frame.el
7 12 115 emacs/my-ggtags.el
13 26 272 emacs/my-go.el
42 101 1127 emacs/my-google3.el
12 19 221 emacs/my-haskell.el
69 163 2038 emacs/my-helm.el
36 96 896 emacs/my-hydra.el
29 80 876 emacs/my-imenu-anywhere.el
38 84 893 emacs/my-init.el
60 169 1878 emacs/my-ivy.el
64 185 1796 emacs/my-js2.el
102 269 3181 emacs/my-kings-viking.el
14 45 460 emacs/my-linux.el
27 84 717 emacs/my-mac-ns.el
16 42 514 emacs/my-mac.el
47 95 1195 emacs/my-magit.el
26 69 708 emacs/my-markdown.el
331 971 10738 emacs/my-memo.el
89 245 3007 emacs/my-nxml.el
267 777 9537 emacs/my-org.el
19 34 370 emacs/my-outline.el
155 424 5922 emacs/my-perspective.el
13 34 352 emacs/my-platform.el
52 117 1322 emacs/my-python.el
24 41 532 emacs/my-rescue.el
164 516 5842 emacs/my-rtags.el
120 313 3926 emacs/my-rust.el
81 223 2769 emacs/my-scala.el
27 55 500 emacs/my-scratch.el
44 130 1400 emacs/my-shackle.el
27 65 933 emacs/my-smart-mode-line.el
6 11 118 emacs/my-smartparens.el
54 133 1657 emacs/my-swiper.el
76 257 2300 emacs/my-term.el
19 54 656 emacs/my-undo-tree.el
476 1197 15433 emacs/my-util.el
106 300 3727 emacs/my-web.el
17 31 419 emacs/my-wgrep.el
151 480 6780 emacs/my-workaround.el
54 116 1480 emacs/my-xterm-color.el
34 73 895 emacs/my-yasnippet.el
5238 14558 177798 total
ありません。
Emacs (cc-mode, rtags, flycheck-rtags, company-rtags)
rtags はとてもオススメです。
ビルドツールである ninja や CMake は JSON Compilation Database Format Specification を出力できます。 rtags はこの情報をもとにコードを解析するので、シンボル・ジャンプや補完がほぼ正確です。私も実際に Blink の開発で使用しています。
なぜかあまり有名でないけれど、Eclipse CDT も相当便利です。巨大なレポジトリに対して使用するにはちょっとしたコツがいるのですけど、 Mozilla のドキュメント (Eclipse CDT) や、 Chromium のドキュメント (Linux Eclipse Dev) が参考になるかもです。
Emacs + org-mode (アウトラインエディタとして) + org-babel (コード実行できるメモ環境として)。
アウトラインエディタはとても重要です。Todo やメモなどはすべて アウトラインエディタ ( Emacs + org-mode ) で管理しています。
基本的に人にオススメとかはしないです。自分で見つけましょう。
以下は単なる私の感想です。
SICP: Structure and Interpretation of Computer Programs: ★★★★★★★
名著です。カバーする範囲はとても多岐に渡ります。大好きな本です。
Introduction to the Theory of Computation: ★★★★★
実用性はあまりないのかもしれませんが、とても面白いです。「計算するとはいったいどういうことか?」ということを、「証明の力」で鮮やかに切っていきます。私はこの手の本を読むのがわりと好きだったりします。
Concreate Mathematics: ★★★★
Knuth 先生の隠れた名著。離散数学楽しいです。
The C++ Programming Language, 4th Edition: ★★★★
C++ 11 に関しての知識が足りないな―と思って読んだ本です。なんといっても、著者は、C++ の作者である Stroustrup さんです。古い仕様にとらわれず、最初から C++ 11 の機能をきっちり使っていきます。最初のほうはチュートリアル形式で解説していくので、C++ の初学書にも実はよいのかもしれません。そのあまりのボリュームのためぜんぶ読むのは大変なのですが、C++ 好きなら読むのを苦痛に感じることはなく楽しく読めると思います。
(Effective C++ と比較した場合)ちょっと重箱の隅をつつきすぎ、という感想をもってはいけないのかもしれませんが、ちょっと蛇足が多いかなーと。
Programming Rust: TODO
The Design and Evolution of C++: ★★★★
これも Stroustrup さんの本です。技術書というより歴史的な読み物です。C++ 使いなら、涙なしでは読むことのできないノン・フィクションです。とても共感できます。
楽しみにしていたものの、わりと当たり前のことしか書いてなかった気がします。そのため、ほとんど内容を覚えていないです...。ごめんなさい。
Code Complete (Developer Best Practices): ★★★
これも当たり前のことしか書いてなかった気がします。そのため、あまり印象にのこっていないです...。当たり前のことを当たり前に身につけるにはとてもいいショートカットになるのかも。
Programming in Scala: A Comprehensive Step-by-Step Guide: ★★★★
Scala をはじめたときに一通りの知識を身につけるため読みました。
Hacking: The Art of the Exploitation ★★★★
ハッキングは芸術です。「こんな本、他に誰が読むんだろう」と思っていたら、意外に Amazon.com などでの順位が高くて、びっくりした覚えがあります...。前半部分がとてもよいです。特に 3 章。1 章、2 章でつくったプログラムには実は脆弱性があって、3 章ではそこをついて、特権を奪っていく過程がとてもエキサイティングです。
Types and Programming Languages: ★★★★★
型理論は、コンピュータ・サイエンスの中でも理論が実際にとても役立っている貴重な分野のひとつだと思います。 TAPL では OCaml が使用されていますが、自分の好きな言語ですべての演習をやってみるというのもありだと思います。私は以下の章は OCaml ではなく Rust で実装しました。
Functional Programming in Scala: ★★★★
「関数型プログラミングとは!」とは頭の中で理解するものではなく体得するものです。この本はまさにそれに応えてくれます。前半、いろいろなものを自作させられます。そして、後半で、「ほーら、いままで作ってきたものは、全部、同じような類似点があったでしょ。それが、モ・ナ・ド ♡」と優しく教えてくれます。
TODO: 追加する
Compilers: ★★★★
COOL という Mini Object Oriented Language のコンパイラをつくるコースです。一度もコンパイラをつくったことがないのなら、とても楽しいと思います。
離散最適化に関する数々の理論とテクニックを学べます。なんといっても、講師の先生がノリノリです。
TODO: 他のコースを追加。
The Python Tutorial : ★★★★★
Python は公式のチュートリアルがとてもよいので、これだけ読めば最初は十分です。
Learn You a Haskell for Great Good!: ★★★★★
最初は圧倒的にこれがオススメです。Haskell そのものは学ぶつもりはないけれど、「関数型プログラミングの考え方」だけはきちんと理解したいという人にもよいかもしれません。
ほんとそう思います。気にしているんですからそこは触れないでください。ほんとすいません。とある事情で...。